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06 rensai
2006.2(No.21)2月25日 広報誌「未来創発」野村総合研究所(NRI)
nomura  wagami
「システムと渾沌」

僧侶であり作家の玄侑宗久さんが、仕事や個人がよりいきいきとしていくためのヒントを禅的な視点から語るエッセイ「我が身の経営」。第4回は、合理性や秩序のみを追い求める現代人に東洋的思想「混沌」のもつ深淵な力を見直すことを提案します。


文/玄侑宗久 写真/斉藤さだむ

 写真/斉藤さだむもともとは『荘子』の言葉だが、東洋には「渾沌」という捉え方がある。これは英語に訳すと「カオス(Chaos)」になるが、それではどうもしっくりこない。
 西洋人は「初めにロゴス(Logos)ありき」の人々だから、ロゴス的秩序の失われたカオスをどうしても否定的に捉えている。彼らの云うカオスとは、無秩序であり、大混乱のことだから、これは本来の渾沌とは違うのだ。
 渾沌とは、なにより創造機能であり、中国人はそれを陰陽のうねりとして捉えた。大切なのは、それが合理的には理解しえないことを、彼らは肯定的に見ていたということだ。本来最も創造力に富んだシステムは、ワケのわからないものを含んでいるということなのである。
 だから元気のいいシステムでは、ときどきロゴスでは理解できない出来事が起こる。
 たとえば妙な人が現れて小学校でナイフを振り回す。とても人間とは思えない男が小学生の女の子を殺害して捨てたりする。あるいは遅刻するのを怖れた運転士が電車を暴走させたりもする。会社の中だって、情報やお金を横領しようなんて輩(やから)が出たりする。
 むろんそうした犯罪や事件じたいは困ったことだし、多くの事件には私も怒りを禁じ得ない。しかし現在の日本で問題なのは、そんなときの組織の対応である。彼らはどうも、事件一つでシステム全体を疑い、二度とそんな事件が起きないようにと、これまで慎重に組み立てたのとは全く別なシステムを作ろうとする。
 それがどうしておかしいのかと、思う方もいるかもしれないが、それはシステムというものを、合理的で秩序だったものだと勘違いしているから、という気がする。
 誰も侵入できないように学校の塀を高くし、しかも警備員を配置したうえで登下校には父兄に引率してもらう。これならどんなおかしな人間が出現しても大丈夫だというわけだが、果たしてそうだろうか。
 どんなシステムも、それが生きている限りは必ず誤算を含む。つまり予想できないことが起こるのがシステムである以上、どんな予想も必ずいつか破られるのである。
 たまに出るそうした例外のために、当初良かれと考えたシステム全体を放棄するのは如何なものだろう。
 21p当初は子供たちに、自由に道草しながら自然に親しみ、小鳥や動物にも親しんでほしいと考えていた親たちが、今や子供を守るためにより頑丈な檻に彼らを入れようとする。それはたまに来る台風に窓を壊されないようにと、窓のない家を作るようなものだ。風通しが悪くてとても住めたものではないだろう。
 行政も会社も、最近は管理を厳しくすることで例外を産みだすまいと躍起であるように見える。しかし例外が生まれなくなったとき、そのシステムは死んでしまうことを忘れてはならない。『荘子』における渾沌も、眼鼻耳口が全部できて「解った」とき、死んでしまったのである。
 組織である以上、スタンダードを設定することは必要かもしれないが、善くも悪しくも例外はあったほうがいい。わからない要素は多いほうが面白いではないか。優れた発明も未曾有の大躍進も、みな例外が力を得て引き起こしてきたはずである。
 疑って管理を強めるのではなく、あくまでもシステムは、システムそのものを信じることで力を発揮する。システムを活かすには、予想しないことが起こることは前提に、どーんと構えることだ。
 あなた自身、渾沌を孕んだシステムなのだから。

ロゴスとは、あらゆる言語表現、あるいは秩序やまとまりをもたされたもののこと。新約聖書には「はじめにロゴスありき」と書かれている。一方、東洋思想では、最初は混沌(カオス)だと考えられている。
syuku 『荘子』に出てくる寓話。はるか昔、南にいた「しゅく(左画像参照)」という天帝と、北にいた「忽(こつ)」という天帝が、世界の真ん中にいた「混沌」という、のっぺらぼうの天帝を訪ねていった。混沌は二人を手厚くもてなしたので、しゅくと忽は恩返しをしようと、混沌に眼・鼻・耳・口の穴をつけてあげた。すると混沌は死んでしまった。
[写真キャプション]坐禅を組む筆者。副住職を務める福聚寺にて。

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