
十にして立つ』という孔子(こうし)の言葉があるせいか、30歳になったら見識を持ち、独立しなければならないと思いがちである。だが、臨済宗の僧侶で、芥川(あくたがわ)賞作家の玄侑宗久さん(49)は、転機を迎えたいと思うことの危険性を説くことから始めた。
「今、目的意識を持つことが重要視されすぎています。自分で決めた目標にしばられ、かえって自分を苦しめている。『三十にして立つ』の前の言葉は、『我十五にして学に志』。孔子は30歳で自分の原点に回帰すると言いたかったのではないでしょうか。東洋的な人生観には、源に戻るという回帰の思想があると思います。反対に、西洋的な人生観は進歩の思想で、自分が経験したことのないところに向かおうとしますから、やりがいはあるかもしれませんが、同時に危険も伴います。だから、東洋的な回帰の思想を持っていたほうが、スムーズに転機を迎えられると思います」
すべては無常。一瞬たりとも同じものは存在しないというのが、仏教の考え方。
「同じような状況なのに、前回とまったく違う解釈ができる、そういう物の見方の変化のほうが、はるかに大きな転機です」